探鯨譚(クジラをさがす話) その4
その日のクジラの行動は初めて経験するものだった。
これまで、何度かマッコウクジラを観た経験はあった。初めて経験したのは、ノルウェー北部ロフォーテン諸島アンデネス沖合だ。マッコウクジラは深海に潜って採餌する。潜行時間は20分から40分と言われている。潜行と潜行の間、海面に漂いながら休憩している(ように見える)。ウォッチング船は、休憩中のクジラを探し出して近づいていく。規則的にゆっくりと呼吸(「ブロー」というようだが)しているクジラに近寄り、静かに見守る。休憩を終えたクジラは、おもむろに潜水に移り、別れを告げるように尾を高々と挙げて海中に姿を消す。それまで息を潜めてじっと見守っていた人々は、この時、一斉に「ダイビーング」と叫んで異様な興奮に包まれる。クジラが沈んでいった海面は、沸騰しているように水の塊が湧き上がってくる。それを見て、人々はあらためてクジラの力強さを感じ取るのだ。アンデネスのホエールウォッチング(アンデネスでは「ホエールサファリ」と呼んでいた)は、およそこのような点順の繰り返しで行われていた。北極圏にある町だから夏の間は太陽が沈まない。「午後8時出航」などということも珍しくない様子だった。
根室海峡のマッコウクジラもほぼ同じような順序で観察できていた。ところが、先日、6月30日の遭遇は、かなり違っていた。全体では10回くらいの観察機会があったのだが、その大部分がブローを発見し、船が近づいていく途中で鯨が潜水してしまう、というものだった。したがってこの日は、10回もの観察機会があったにも関わらず、少しだけ物足りなさの残るホエールウォッチングになったように感じた。
原因は、わからない。たまたまそのようなタイミングが続いただけかも知れない。
あるいは、18日ぶりに現れたマッコウクジラだったのでウォッチング船に慣れていなかったために警戒心が強かった。
ムシの居所が悪かった。
ウォッチング船を鬱陶しく感じるようになった。
お腹が空いていたので、海面での休憩時間を長くとらずに精力的に潜水した。などなど。
クジラの気持はわからないが、根室海峡のクジラたちが、ウォッチング船をうるさく感じるような事態に立ち至らないことを切に願うものである。
写真はアンデネスのホエールサファリHPより借り物
http://www.whalesafari.no/a/?id=66&vn=738 アンデネスのホエールサファリHP
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